狼陛下と仮初めの王妃



「君の指は、鋼の紐よりも威力があるな」

「あ……ごめんなさい。そんなに強く握ってるつもりは、なかったんですけど」


陛下の手の中から慌てて手を引っ込め、コレットは瞳を伏せた。


「私が、リンダとマリアを呼んでおく」


コレットは陛下に背中を押され、執務室の中へ入った。

パタンと閉まる扉の向こうから、「しっかり頼む」と陛下が騎士に命じる声がコレットの耳に届く。

足音が遠ざかっていくのを聞きながら、コレットは陛下の唇が触れた指先を手のひらで包んだ。

服を掴むなど、どうしてそんなことをしてしまったのかコレットには分かっていた。

陛下に傍にいてほしい、離れてほしくない……もっと触れてほしい。そう思ってしまったから。

けれど彼の優しさは国王陛下として民を慈しむものであって、コレットが特別だから向けられているものではない。

お沙汰で王妃となって、隙あらば引きずり降ろそうとする大臣たちの嫌味な攻撃を受けたり、裏山で危険な目にあったりした、一女性に対する気遣いでしかないのだ。

やがて『身も心も王妃に相応しいご令嬢』が見つかれば、偽物のコレット王妃はお役御免となる。

夜は甘い顔を見せられて、今みたいに優しくされると、たまに勘違いしそうになるが、そこはしっかり線を引かなければならないところだ。

傍にいたいと願ってはいけない……。