狼陛下と仮初めの王妃



いつ何時来るか分からないのに、騎士団を相手にしては敵わないと分かっているのに。

ふたりの気持ちをありがたく感じ、コレットはますます逃げない決意を固めるのだった。


「ニックおじさま、アリスおばさま。聞いてください!コレットは、絶対逃げません!!」


拳をぐっと握って見せ、力強い決意を示した。

暫し唖然としていたふたりが口を開き掛けると、外から馬の蹄の音が聞こえてきてぴたりと玄関の前で止まった。

扉がドンドンと叩かれ、ハッとした表情をして三人同時に扉に注目する。


「ガルナシア城より使者で参りました。コレット・ミリガンは在宅ですか」


返事をするよりも先に扉が開かれ、昼間見たメガネの騎士が立っていた。

その後ろには誰もおらず、どうやらひとりで来たよう。


「そんな娘はおりません!とっとと帰ってください!」


扉の前に陣取って棒を振り回しているニックを華麗に無視し、メガネの騎士は部屋の中を見回し、コレットを見つけるとスッと家の中に入ってきた。


「コレット・ミリガン。あなたに沙汰が下りています。城まで同行願います」


相手がひとりと知ったアリスの胸に、ちょっとした希望がわく。

メガネの騎士は細身で、パッと見はインテリ風な優男だ。もしかしたら、勝てるかもしれない。

そう思ったアリスは、フライパンを強く握りなおした。


「使者だか何だか知らないけど、コレットは行かせないよ。大事な子なんだから」