「では、ここで待っていてください」


護衛の騎士に声をかけて書庫に入れば、いつものごとく時の流れを感じさせる重厚な雰囲気に圧倒される。

たくさんある棚の間を、背表紙を眺めながらゆっくりと移動する。

探しているのは、外交の記録が書かれたものだ。

今までどんな国の訪問を受けて、どんなおもてなしをしたのか、勉強しておこうと思っている。

なぜなら、一週間後に隣国ハンネルから王太子が来て、城に滞在されるからだ。

コレットには初外交となり、王妃としてはどうもてなせばいいのか分からない。

陛下は隣で笑っていればいいと言ったが、外交はそんな簡単なものではないと思うのだ。


「えっと……?」


勇んで来たのはいいが、どの書物にずばりと外交の記録が書かれているのか、ちっとも分からない。

いつも陛下のオススメしてくる書物ばかり選んでいるので、コレットひとりじゃ難しすぎて棚の間をうろうろするばかり。


「訊いたほうが、いいみたい」


がっくりと肩を落として執務室に戻ろうとすると、どこからか物音が聞こえたような気がし、コレットの体がカチンと固まった。


「今のは……なんの音?」


自分以外誰もいないはずの王の書庫の中で、音などするはずがない。

風が揺らした窓の音とは異質なもので、背中に冷たいものが走った。