アリスは目に涙を浮かべ、頼むから逃げてくれと何度も言う。
ニックも同調し、腰が痛いながらもゆっくりベッドから下りてコレットの手を握った。
「コレットのことは、娘同然に思ってるんだ。家族と一緒なんだよ。夜の闇に紛れて逃げてくれ」
さあさあ早く支度をしてと追い立てられるようにされ、コレットは戸惑いながらも自室へ入った。
外はいつの間にか夕暮れが迫っている。
すべてを覆い隠す夜が訪れるのはもう間近だ。
小さなバッグに荷物を入れながら、本当にこれでいいのかと思う。
ニック夫妻に迷惑がかからないようにと、決意したばかりではないか。
それに、いくら恐ろしい狼陛下でも、ミルクをかけられただけで首を飛ばすなど、そんな無慈悲なことはなさらないはずだ。
なんらかの罰はあるだろうけれども。
荷物をまとめるのを止めて、コレットはニック夫妻のところに戻った。
声をかけようとするが、ふたりの様子を見て驚き、何度も瞳を瞬かせる。
アリスはフライパンを握りしめて窓の外を窺っているし、鍋を頭にかぶったニックは椅子を玄関の扉前に置いて座り、棒を持って真剣な表情で陣取っていた。
まさに臨戦態勢。
コレットが無事に逃げるまで、城からの使者を入れないつもりらしいのだ。


