狼陛下と仮初めの王妃



遠くからしか見たことがないお城の全体が間近にあって、しかもまるごと見下ろせるなんて、コレットはなんだか不思議な気分になった。

まるで城を支配下に置いているような、そんな大きな気持ちになる。


「私は時々ここに来て、城と街を見下ろすんだ。そして、気持ちを原点に戻す」

「ここで……?」


陛下は政務で迷いが生じたときや煮詰まったときなど、城を抜け出してここから街を見下ろすのだと言う。

すると、内戦の時に決起したときの気持ちを思い出すと話す。


「私は、この場所から街を眺め、騎士団を動かすことを決めたんだ。美しかった街が壊れ、悲惨な状態だった。あのボロボロだった街の中で、君は、両親の亡骸を前に震えていたんだな」


すまない、とつぶやく陛下の声がコレットの頭の上でするのと同時に、ぎゅっと抱きしめられた。


「もう少し早く決起していれば、街の人が犠牲になることも少なかったのでは、と今でも後悔するときがある」


あのとき命をなくしたのは、コレットの近所に住む人たちも多かった。

目を閉じれば、皆の笑顔だけが思い出される。


「確かに、亡くなった人は多いです。それでも陛下は立ち上がって、国を立て直してくださいました。街は内戦があったとは思えないくらいに綺麗で立派で。全部陛下のおかげだと、街のみんなも、わたしもすごく感謝しています」