ニックの休む部屋に三人は集まっていた。
ニックはベッドの中、アリスはベッドわきの椅子に座り、コレットは扉近くに立っている。
コレットが都であったことを話すと、最初笑顔だったふたりの表情からみるみるうちに色がなくなっていった。
「それは本当なの!?」
アリスはガタッと音をたてて椅子から立ち上がり、胸の前で手を組んでオロオロと部屋の中を歩き回った。
ニックは苦虫を噛み潰したような表情をして、拳を握りしめている。
「畜生、俺が腰さえ痛めなきゃ。こんなことには……」
狼と怖れられる陛下に出会ったことも稀なのに、まさかミルクをぶっかけてしまうとはなんたることか。
ニック夫妻は驚くやら困惑するやら、シュンと沈むコレットにかける言葉を失っていた。
「ごめんなさい。ミルクを失った上に罪まで犯してしまって」
深々と頭を下げるコレットの肩を、アリスはガシッと掴んだ。
その顔は青ざめているが、瞳には鬼気迫る光が宿っている。
そんなアリスの表情を見るのは、四年前に戦場である都からコレットを連れ出してくれた時以来だ。
「あ、アリスおばさま?」
「コレット、今すぐ逃げなさい」
「は?おばさま、なにを言って……そんなことをしたら、ここに迷惑が掛かりますよ?」
「いいから。早く荷物をまとめて。お相手は狼陛下と呼ばれるお方なんだよ。もしかしたら、首が飛ばされるかもしれないんだ。私はそんなの嫌だよ!」


