「今日、視察に出かけた折に手芸店に寄ったんだ。私は男だから、裁縫道具はよく分からず、店の者に尋ねて準備してもらった。中身に不足はないか?」
「はい、十分です。これだけあれば、たくさん刺繍ができます」
陛下は仕事の途中でお店に寄ってくれたのだ。
視察ならばきっと騎士団と一緒で、彼も黒衣の騎士服を着ていたはずだ。
コレットは、ミルクをかけてしまったあの日の陛下を思い出していた。
あんな立派で恐ろしい彼が手芸店に訪れたなら、お店の主人はさぞかし驚いたことだろう。
手芸店といえば、カメの数を誤魔化すように勧めて来たあの男性のお店だろうか。
つい最近のことなのに、なんだか懐かしいような気持ちになる。
あの男性と手芸店の中にいる陛下を想像したらとても可笑しくなり、コレットはクスクスと笑いを漏らした。
そして、そういえば、と思い出す。
あのときもらった紫色の刺繍糸は、木綿のワンピースのポケットに入れたままだ。
例の宿泊施設で脱がされて、それからいったいどうなったのか。
あれから一度も目にしてないことを考えると、ワンピースは捨てられたということもある。
それだと、お沙汰終了時に着て帰る服がないということになり……。
下着一枚でうろうろする自分の姿を想像していまい、サーッと青ざめる。
なんということだろう!明日にでも、早速リンダに訊かなければならない。
立派な裁縫道具があるのだ、最悪の場合、自分でワンピースを仕立てようと決め、コレットは道具箱の蓋を閉めた。


