狼陛下と仮初めの王妃



刺繍途中の針をハンカチに縫い留め、コレットは立ち上がってカーテンを開けてみた。

外は月もなく星も見えず真っ暗で、どうやら空一面雲が覆っている様子。

窓を開けてみれば、霧のように細かい雨がガルナシア城を濡らしていた。

なんとなく手を伸ばしてみると、さわさわとやさしく撫でるように濡らす雨が肌に心地よく感じる。

夕暮れまでは晴れていたのに、いつから降っていたのか。

牧場で暮らしているときは、急に降ってきた雨に濡れることも多かったけれど、城で暮らしている限りは雨に濡れることもない。

自然を感じることが少なくなってしまった。

そんな寂しさを感じながら腕を雨に濡らしていると、白いものがコレットの目の端を掠めてハッとする。

それは陛下の腕で、細い腕と並べるようにして窓の外に延ばされており、もう一方の腕は華奢な体をしっかりと捕まえていた。

背中がぬくもりに包まれて、彼の使う石鹸の香りがコレットの鼻をくすぐる。

胸の下にある腕に、トクトクと高鳴る鼓動が伝わってしまいそうでよけたくなる。

けれど、強すぎずかといって弱くもない絶妙な力加減は、ときめきとともに安心感も与えてくる。

そんな相反する気持ちに戸惑いを感じていると、陛下はぽつりと言った。