狼陛下と仮初めの王妃



リンダとマリアが辞していき、ひとりになった夜の就寝前のひととき。

コレットは窓際にあるひじ掛け付きの椅子に座り、燭台の灯りのもとで刺繍をしている。

薄紫のハンカチに白い糸で、王妃の印であるカトレアの花を刺していく。

針と鋏はリンダから借りたもので、コレット専用のお裁縫箱はない。

城から出る繕い物や仕立て物はほとんど全部を街の職人に依頼するので、侍女でもお裁縫箱を持つ人は少ないとリンダは言っていた。

その話を聞いて、ジュードの持ってくる申請書のなかに繕い物の項目が多くあったことを、思い出したのだった。

今コレットがしている刺繍ひとつにしても街の職人に依頼するのは、人々の暮らしを潤すことになり国にとってはいいことだ。

けれど、ほんの少しのほつれなら自分で直せばいいのに……などと思ってしまうのは、庶民の性か。

王妃としては口にしてはいけないことだと分かっている。

そんなわけで、コレット専用のお裁縫箱は用意されないままだ。

刺繍糸もあまり種類がなく凝った絵柄は刺せないが、それでも久しぶりの手仕事をとても楽しんでいた。

ふと、いつもより窓の外が暗い気がして、コレットは目を上げた。

普段ならばカーテンの向こうに月の明りを感じるけれど、今日はやけに静かだ。


「今夜は、新月じゃないはずだけど……」