狼陛下と仮初めの王妃




「マリア。あの箱は、コレットさまにしか触れないものですから、気をつけてください」


マリアはうなずきながらも、宝箱から興味が離れない様子だ。

コレットが棚に仕舞って扉に鍵をかけるのを見ながら、リンダに尋ねている。


「あの箱の中には何が入ってるか、リンダは知っているんですか?」


綺麗なものに惹かれたり、未知のものに興味を抱く気持ちは、リンダも十分分かる。

だが、これは王妃の証である宝剣が関わることで、加えて書庫の鍵も入っている。

書庫の鍵の重要さは知らないリンダだが、分かってることはただ一つ。

なにかあれば自分だけでなく、王妃はもちろん陛下にまで迷惑をかけてしまうこと。

ここはしっかり言い含めるよう、リーダーとして厳しくしなければならない。

リンダは、心から尊敬するアーシュレイがたまに見せる、あの“逆らっちゃいけないオーラ”を、お手本にすることにした。

ナアグル家に仕えているときからずっと見つめて来た彼のこと。

物真似くらい容易にできるはずだと、リンダは大きく息を吸ってマリアに向き直った。


「マリア、いいですか。触っちゃいけないということは、中身についても、詮索や口外をしてはいけないということです。分かりましたか」


ちょっと、いや、だいぶ本家の迫力には負けるが、どうやら試みは成功したよう。

「はいっ!」と返事をしたマリアは、こわばった表情で、姿勢をぴんと正した。

城では新米侍女のリンダだが、古参と言ってもなんら遜色のないリーダーぶりである。

その様子を見ていたコレットは、さすが、アーシュレイが見込んで連れて来た人だと感心したのだった。