狼陛下と仮初めの王妃



「ありがとうございました。明日は必ず規定通りに納めます」


役人たちに深々と頭を下げて納入を済ませ、荷馬車は小さな通用門を出る。

一つの心配事が取り除かれると、もう一つの不安が胸の中を占領する。

コレットは左右に伸びる灰色の城壁を見上げた。

道からはお城の屋根も見えないほどの堅牢な造りは、恐ろしくて強いサヴァル陛下のイメージそのもの。

このお城のどこかに陛下がいて、自分の罪を裁いているのだろう。

そう思えば、奈落の底まで気分が沈んでいく。

いったいどんなお沙汰が下りるのか。

ニック夫妻に迷惑が掛かるものでなければいいが。

コレットは楽しみにしていた買い物をする気にもなれず、まっすぐニックの牧場へ戻った。


暗鬱なコレットをよそに、牧場はゆったりと平和に時が流れている。

さわさわと草を揺らして吹く風が、豊かなブロンドの髪をふわりと揺らす。

牛の鳴き声に加え、首に着けたカウベルの音が耳に心地よく、欝々とした気分を少しずつ癒していく。


コレットはこの牧場が好きだ。

優しいニック夫妻はもっと大好きだ。

もしも罪状が牧場に迷惑をかける様なものだったら、自分ひとりのものに変えてもらうよう強く願い出よう。

そう決意し、荷車を作業小屋に戻して馬を小屋に入れた。