もしかしたら、陛下もこの扉があることを知らないかもしれない。
サーラが食べられる花だと皆が知らなかったように、城にはきっと、誰も知らないようなことがたくさんあるのだ。
見つけたことは誰にも言わないでおこうと決め、コレットは急いで執務室に戻る。
すると頬を引きつらせて待っていたアーシュレイに、さっそく叱られたのだった。
「部屋を出るときは、必ず誰かにひとこと、どこへ行くか言ってください!」
「ほんの少しの間、書庫に行って来るだけだから、いいと思ったんです」
首をすくめつつもコレットが言い訳すると、アーシュレイの雰囲気がスッと変わった。
体を纏う空気が冷たくなり、額に黒い陰ができ、静かで抑揚のない声を出す。
「あなたは、自分の立場が、全然、分かっていないんですね」
ずいっと迫ってきたメガネがいつもよりも冷たく、コレットは一歩後ずさりをした。
アーシュレイは、このメガネだけで人を倒せそうな気がしてしまう。
「わ、分かっています。わたしは、王妃ですっ。偽物の!」
「偽物……ですが、あなたは、陛下にも言われているはずです。王妃は、ひとりで行動してはいけないと。極端な話、あなたは、自分で部屋の扉を開けてはいけないんです」
扉を自分で開けられないとは不自由極まりないと思うが、コレットには反論できない。
「わ……わかりました!今度から、絶対、誰かに言います!」
「ならば、いいです。約束ですよ」
アーシュレイから醸し出されていた冷たい圧迫感が消え去り、コレットはホッと息を吐く。
彼は陛下の側近と言うだけあり、その優し気な外見とは裏腹にとんでもない迫力を内に秘めている。
アーシュレイには逆らってはいけないと、改めて感じたのだった。


