ミネルヴァが身分のことで嫌味を言うのは予想の内、コレットは口元に微笑みを浮かべて余裕を見せた。
「わたしは、この先の書庫に書物を戻しに行くだけです。ほんの少しの移動です。供は必要ありません」
「ほう、この先にある書庫といえば、国王の書庫しかございませんが?」
そう言って怪訝そうな表情をしたミネルヴァが、コレットの胸元に目を留めた。
その目が、コレットの顔と鍵の間を何度も往復している。
まもなく彼は、信じられないものを見た、という感じの声をだした。
「まさかそれは、書庫の鍵……ですか」
「はい。これは婚儀の日に、陛下から頂きました」
鍵を指先でつまんで見せると、ミネルヴァは喉の奥で唸った。
「王の書庫の鍵。それは、本来王子が世継ぎの証として受け継ぐものですぞ。あの中には、門外不出の書物や、代々閲覧を禁じられた書物もあると聞きます。何故、そんな大事なものを、陛下は王妃さまなどに……」
「それはきっと、陛下がわたしを信用なさっているからです。大事なものを預けても、大丈夫だということです」
「それは、王妃さまが世継ぎ王子をお産みになるまで、と言いたいんですかな」
ミネルヴァの言わんとすることが分からず、コレットが首を傾げて見せると、彼は苦々し気に顔を歪めた。
「陛下はやはり側室はもたないつもりか……」
口の中でもごもごと言う彼に、コレットは曖昧な微笑みで返した。


