狼陛下と仮初めの王妃



「役人さんに正直にお話して、どうすればいいのか相談します。親切にしていただきありがとうございます」


男性たちは顔を見合わせて肩をすくめると、荷馬車にミルクのカメを戻し始めた。


「お嬢さんは、正直だなあ。俺たち、ちょっと恥ずかしくなったよ」


頭をかきながら照れたように笑う口ひげの男性は、手芸店の主だという。

ポケットの中から一束の刺繍糸を出してコレットに差し出した。


「ちょっと目が覚めたな。お嬢さんの正直さと勇気を讃えて、これをあげるよ。新色なんだ」

「え、でもいいんですか?お店のものじゃないんですか?」

「いいんだよ、受け取ってくれよ。お嬢さんにあげたいんだ」

「ありがとう……綺麗な色」


男性がくれた糸は、紫色のもの。

コレットは刺繍糸をポケットに仕舞い、見ず知らずの自分に親切にしてくれた皆に何度もお礼を言って、ミルクを納めるべく城を目指した。


ぽっくりぽっくりと、荷馬車はゆっくり進む。

それを見送る皆は、一斉に苦笑いをしたのだった。

あの速度では、泥棒の標的になるはずだと──。


そんな風にのんびりゆっくりでも城に到着し、でっぷり太った役人にカメが一個足りない理由をたどたどしいながらも一生懸命説明をするコレット。

話を聞いてくれた役人はうーむと唸り苦々しい表情をしていたが、別の役人も出てきて何やら相談をし、明日一個余分に入れることで、どうにか話が収まった。