コレットの瞳と同色の美しい羽ペンがインク壺と一緒に置いてあり、いつでも仕事ができるよう準備万端に整えられている。
それの横には紫のサフランが描かれた茶色の小箱が置いてあり、開けてみると、封蝋用の赤茶色の蝋と印璽(いんじ)が入っていた。
印璽はコレット王妃の印であるカトレアの花が彫られていて、出来立てのほやほやで、まだ一度も使われていない。
「偽物王妃なのに、わざわざ作ったんですね?」
印璽を見つめて感心しながら言うコレットに対し、アーシュレイはきらりと光らせたメガネの蔓を持ち、抑揚のない声で言った。
「当然です。一時的と言えど、あなたは王妃なんですよ。なければ困るでしょう」
これの出番は、手紙の封蝋と重要な書類にサインと並べて押すときだけ。
これから羽ペン一本で事が決まって、お金や人が動くことになるのだ。
そう思えば、かなり責任重大な仕事である。
今日から一日の大半はここで過ごし、陛下から要請があれば謁見の間に行って王妃の椅子に座るのだ。
未経験のことばかりで想像もできないコレットのもとに、書状を持った執事が尋ねて来た。
「失礼いたします」
礼儀正しく挨拶をして入ってきた執事はジュードと名乗った。
「王妃さまには、本日中に処理していただきたく存じます」
柔らかい微笑みを向けてくる彼のことを、コレットはじっと見つめた。


