「山から下りてきたんだろう?ガタガタ揺れて零しましたって言えば、少しくらい中身が減っていても文句は言われないさ」
「なんなら、俺たちが移すのを手伝ってあげるよ」
え……とか、でも……とか、戸惑いの声を上げるコレットに対し、男性陣はニカーッと笑って見せる。
「世の中をうまくわたっていくには、ちょっとの狡さも必要だよ、お嬢さん」
「明日、『昨日零し過ぎたお詫びです』って、ちょっと余分に持って来ればいいよ。減っちゃったのは、不可抗力なんだからさ」
背中をさすってくれた婦人までもが、誤魔化すのを進めてくる。
コレットがどうするべきか悩み黙ったままなのを見て、男性陣は了承したと思ったのだろう。ミルクのカメを荷馬車から降ろし始めた。
どう移せば自然に見えるかと、あーだこーだと相談している。
その様子を見ながらコレットは考えた。
やっぱりどんなに些細なことであっても誤魔化しはいけないことで、ましてやこれは城に納めるもの。
あのサヴァル陛下の住まうところだ。
もしもバレたら罪を重ねてしまうことになる。
冷たい声と紫の瞳を思い出し、ゾゾッと身震いをした。
「あの、皆さん待ってください!」
コレットが声を上げると、空っぽのカメに今まさにミルクを移そうとしていた男性は、ピタッと止まった。


