1月2週目の金曜日。


自宅マンションに入ろうとエントランスに向かったら、


「莉子!」


と呼ばれた。


「楓さん?」


振り向くと、楓さんが車からおりてきた。


「ごめん、なかなか会えなくて。


お詫びに、今夜は俺んちでメシ食わない?」


思いきって楓さんに電話をしてから、ちょこちょこメッセージのやりとりはした。


数回、短い電話もした。


でも、業務連絡みたいで、どうでもいいことを長々と話す雰囲気ではなかった。


楓さんの元に近づいて、少しすねた。


「でも、私ちょっと寝不足で」


今週は、準備するものが追加されたり、印刷の不備がみつかったり、ずっと残業していた。


だけど本当は、楓さんに甘えたかった。


だから、楓さんにさらって欲しかった。


「そっか、ゆっくり話したかったんだけどな」


「ごめんね、ゆっくり寝て、明日なら元気になると思うんだけど」


「明日は仕事で戻れないんだ、急に大阪へ行かなきゃならなくて。


じゃあ、また今度な」


楓さんは、私の頭をポンポンなでると、車に乗って走っていってしまった。