愛しの残念眼鏡王子

そんなことない、少なくとも私は違うよ。

私が当時の彼女の立場だったら、迷いなく専務についていったよ。

けれど彼女は彼女なりに、思うことがあったはず。

人はそれぞれ考え方も捉え方も違うと思うから。


それは私もよく分かる。

どんなに好きな相手でも、一緒にいればいるほど見えてくるものがある。

私と彼がそうだった。


一緒に暮らし始めて初めて知ることばかりだった。

小さな生活の違いが、ストレスになったりもしていたから。


「でも俺は、ひとり息子としていずれはここに戻ってくるつもりだったから。……彼女もそのつもりでいてくれていると思ったから、ショックでさ。……でも今は、あのタイミングでお互いの気持ちを知ることができて、よかったと思っているんだ。父さんが倒れたタイミングも全部。そのおかげでお互い見据えていた未来の違いに気づくことができたから」


一呼吸置くと、専務は話を続けた。


「それでも戻ってきたばかりの頃は、けっこうキツイ毎日だった。慣れない仕事だったしね。……そんな俺の心を満たしてくれたのが、さっきみんなが話していた、香川さんと同じ名前の小野寺美月さん」


「みつ、き……」


「そ。香川さんと同じ漢字じゃなくて、美しい月って書いて美月」


小野寺美月……さん。