愛しの残念眼鏡王子

同じ会社ってだけで、きっともう二度と関わり合うことなんてないと思う。
営業部と経理部。歳も違うし。


でも、違った。
小さく頭を下げて改札口を抜けていこうとした時、突然彼から腕を掴まれたんだ。


『待って! ……ごめん、嘘ついた』

『――え』

驚き固まる私に、彼は耳を疑うようなことを言った。


『明日、朝が早いなんて嘘。……香川さんが帰ろうとしたから、慌ててついてきただけ。……もっと、話をしたかったから』

想定外のことに、この時の私は驚き固まってしまっていた。

けれどそれくらい衝撃だったんだ。

だって彼とは飲み会の時、挨拶を交わしただけだったから。


『前に出ることなく、常に周囲に気を遣っていて……。ちょっとだけ笑った顔が可愛いなって思って』


たった一時間ちょっとの時間で、私のことを見て理解してくれていたことが、妙に嬉しかったのを今でも覚えている。