多分私は先輩にとって引き立て役と、数合わせに過ぎなかったはず。

だったら、頃合いを見て帰ろう。――そう、思っていたんだけど……。


『俺も一緒に抜けてもいいかな?』

『え?』


そっとお金だけ置いて、この場から去ろうとした私の腕を掴んだのが彼、武藤 高志(むとう たかし)だった。

私より三歳年上で、物腰の柔らかそうな雰囲気で。

強気なイメージなど一切抱かない印象だった。

だから飲み会中、挨拶を交わしただけの彼とふたりで、逃げるように会場を後にしたんだと思う。


『助かったよ、明日朝早いから早く帰りたかったんだ』

『いいえ、私は特には……』

店を出て駅の改札口にたどり着き、お互い向かい合い言葉を交わしていた。


そっか、彼は彼で早く帰りたい事情があったんだ。

でも私にとっても好都合だった。違和感なくあの場を去ることができたのだから。

『それでは私はここで。明日、頑張ってください』