「あのっ」
見た目は中の中。一言で言うのであれば平凡な少女である。
「好きです、付き合ってくだひゃいっ……あ……」
告白も実にテンプレート。しかも噛んでしまうと言うオマケ付き。
「いいよ……付き合おう」
暇つぶしには最適かもしれない。カワイソー……こんなヤツを好きになるなんてさ。こちらとしては、別にいいのだが。だって暇つぶしだし。
「本当ですか!?」
「ん……」
「そんなっ……夢みたい……」
顔を真っ赤に染めて嬉しそうに恥じらう少女。こんな光景、何回見たか。
「じゃあ」
学校指定の鞄から何かゴソゴソと探し出す目の前の少女。一体何を……?
「一瀬君!」
少女は楽しげに愉快そう嬉しそうにカッターの刃をこちらに向ける。
「私のために死んでください」
何を言っているんだコイツは……?自分には全くと言っていいほど理解ができない。ひゅっ、と軽く喉から息が漏れる。本能がいいから早く逃げるんだと忙しく告げる。自分にしか聞こえない警鐘が鳴り響く。夕日は静かに自分たちを見守る。誰か、いないのか?何故誰もいない?まだ6時だぞ?
生徒は?先生は?
「どうしたの?一瀬君、顔色悪いよ?」
「っ………来んなっ」
「なんで?私、一瀬君の彼女だよ?なんで近づいたらいけないの?」
狂ってる。確信した、コイツは狂ってる。何が平々凡々だ。中身のどこも平凡ではないじゃないか。嘘だろ、俺ここで死ぬのか……?少女が1歩と自分に近づく。俺は1歩と後ろに下がる。
「逃げないでよ」
少女の声が脳髄にジンと蝕む。そう言えば、こいつの名前なんだっけ……?脳みそが現実逃避をし始めた。そうか。きっとこれは夢なんだ……
そう夢なんだ。
「なぁ……」
「はい?」
「アンタ、名前は……?」
「藍瀬愛佳です」
「藍瀬、俺死にたくない」
「いやです死んでください」
「死にたくない」
「お願いします、死んでください」
「なんで?」
「死んでもらわないと私が満足出来ないからです」
「…………」
カッターを握りしめながら物憂げに表情を浮かべる。……この状況で少し可愛いと思った自分もきっと頭がおかしい。
「藍瀬」
「はいっ」
「俺はお前と付き合うけども殺されたくはない」
「私は一瀬君と付き合いたいし殺したいです」
「なんで俺を殺そうとすんの?」
「それは……」
それは?
「恥ずかしくて言えませんっ!」
は?
「もう!一瀬君は大胆ですね!殺す気失せちゃいました!」
「え?ええ?」
「また明日です!明日は殺させてくださいね?」
「あ、うん。じゃあな」
たったっと走っていく。
「わけがわからない……」
夕日はもう沈みかけて廊下は薄暗かった。暫くは退屈しなさそうだ。