「こっち」



さっきから青が進む道は
誰も通らないような細い道を通る。



「ど、どこいくの…?!」


「秘密!着いてからのお楽しみ」









青が立ち止まった場所は
路地裏に隠されたようなお店。


ここだけ時間が止まったような。


外から見える店の中は
ちょっと小さな雑貨店のよう。


小さな豆電球がいくつもあって
ぽつんとしているのを演出している。



「こんばんは、翠」



店のドアを開けて、中にいる
店員に話しかける青。



というか『翠』?!



「昨日ぶりだけどな、ん?客?」



あの翠がいる!!!!!


夏目が応援してる翠が!!


私は、はああっとして驚く。



「あ、なにバレたの?」



「うん、俺のファンだったの」



「そら、歓迎しなくちゃな」



翠は私の前に出てきたかと思えば
にかっと微笑んでくる。


夏目はきっとこれにやられたんだろう。



「青が世話になったな。

知ってると思うけど、俺は翠。
休みの日はここでアクセの店やってんだ」



どおりで人がいない訳だ。



「全部、翠の手作りなんだ!」



ひとつひとつが生きているかのように
並べられている。


ほとんどは星や宇宙や猫のモチーフばかり。


ネックレス、バングル、ピアス…。


青い透明な液体が海を表現するかのように。


全て手作りだとは思えないクオリティ。



「翠、これふたつください」


「ん、いいよ、まけてあげる」



青は何かを買った、と思えば
私の左手を取った。






「…一目惚れ、初めてした」







そういってわたしの左手の小指に
先程買ったリングをはめた。


薬指ではなくて。



「ライブに来てたよね?
その時ファンサービスした時に
一目惚れしてた

その子が電話してた子だなんて
驚いた」



私も驚いた。好きな人と電話してただなんて。


それに今も驚いてる。





一目惚れ、だなんて。





そしてこんなに嬉しいものを
貰ったことはない。



「出会えてよかった、なずな」



ダメだ、また泣きそうになる。



抱きしめてくれる青の温もりが
こんなにも温かいなんて知らなかった。


この人を好きになって良かった。



「ありが、とう……せ、い!」



私はじっとリングを眺める。


こんなに綺麗なものを貰ったら
本当に幸せだと思う。


今までに見た事のないような
何でも透かすような色をしている青色。


翠はどこで、こんなに綺麗なものを
作っているんだろう。


ああ、夢じゃない。


夢だとしても、今、すごく幸せ。





『ありがとう、だいすきだよ、せい』