どきどきしながら
右にある黄緑色の見慣れた
ボタンを押してみる。


電話でこんなに緊張したことはない。



「もしも〜、」





『…………にゃあ』





「……ハァ?」



声が裏返った。


いや、だって猫の鳴き声がした。


切ろうかな、なんて思って
耳に当てたスマホを下ろそうとした時、




『…まだ、戻りたくない』




聞いたような声がスマホから聞こえる。


確実にどこかで聞いたような声。


男の声で透き通るような声。


でも思い出せない。



『もう少し、だけ、待っ、てぇ…』



思い出せない、思い出せない、
なんて思ってた矢先に電話の向こうの相手が
急に泣いているような声に。



『ごめ、なさ、戻りたく、ない、おれッ』



みるみる電話の相手は聞き取れないくらい
ズルズルと泣き出してきた。



『おねが、い……やだ、よう…』



どんどん声が小さくなって
消えてしまうような声になってきた。



私は確信した。



多分間違い電話だと思う。



とりあえず泣き止ませて
間違ってることを理解してもらおう。



うん。それがいい。



でも電話番号は謎のままだけど。