「とりあえず、電話に出ないように」



そう言って部屋を出ていこうとする。



「じゃあ、ひとつ聞いてもいいですか」



私は疑問に思ったことを奴に言う。


奴は背中を向けたままだけども。



「…どうして私の名前を知っているんですか」



「……勘だよ、勘」



そんなわけあるか!!



と言いたくなるのも抑える私。


今日は素晴らしく『待て』が出来るぞ。



まあ電話に出ようが出まいが
私の勝手だろう。



奴が学校から出ていくまで私は
ずっと眺め続けた。





「なずな!!」



ふと呼ばれたほうを見ると
クラスの女子やら数人がいた。



「あのイケメンさんと親戚なの?!」


「紹介してよ〜」



私はあえて奴を悪人にしておく。



「やめとけ、やめとけ
アイツはろくでもないから」



そういってまた奴を見ようとして
窓のほうを向く。



けど奴がいない。



確実に奴はそこを歩いていたのに。








コンクリートの塀の上を難なく
歩いていく黒猫が目に入った。



その黒猫が振り返って、
こっちを見たかと思えば
面白くなさそうな顔をして
走ってどこかへ行ってしまった。





「……は、?」