【花瑠side】




季節は11月になって、すっかり風も冷たくなって、マフラーが手放せない冬がやってきた。


騒がしい朝の教室で、鏡を覗きながら髪型をチェックしていると、イキナリ後ろから声をかけられる。


「おはよ、佐原」


「高梨…」


隣の席の高梨だ。


───そういえば…、高梨が退院してもう一ヶ月になるなぁ……。


あれから高梨は体調を崩すこともなく、体育の授業や給食以外では、普通の人と何ら変わらない生活を続けられているみたいだ。



「もうすぐ合唱コンだなぁ」


ふと、高梨が呟くように言った。


そうだ、もうすぐ合唱コンクール。
クラス対抗で課題曲、自由曲を歌ってその順位を競う。一年でも結構大きなイベント。




「高梨は伴奏?」


「う〜んどうだろ?俺 歌の方でも戦力になると思うから、そっちも捨て難い」





───こうゆうこと自分で言っちゃうあたり、すごいよなぁ。

まぁ事実だから何も言えないけど。




「でも本当に高梨の歌、すごいと思うよ。素人の私でも単に"上手いだけじゃない"ってことなんか分かる。高梨の歌はなんてゆーか……"聴こえてくる"」




私の言葉に、高梨は少し驚いたような顔をした。



「──? 高梨どうかした?」



「今までで一番嬉しい褒め言葉かも……」



「えっ?」



高梨の実力なら、年がら年中色々な人から褒められているだろうに、何故私の言葉が高梨の中で"一番嬉しい"のかは、よく分からなかったけど。


高梨の"一番"………か。




────うん、響きは悪くない。