「湊くん、入るよ」

声をかけてノックをしてみるが、
返事はない。

──やっぱり寝てるのか、
それにしてもこのアラームのような音が
鳴り響いても、寝ていられるとは……。


慣れって怖いな、なんて思いながら
病室に入ると、真っ暗な個室の中で
ベッドの上のライトだけが
ぼんやりと点いていた。

私はその光を頼りに、すばやく
湊くんの点滴の位置を直した。


「………っ…佐原さん……?」

「あ、ごめんね湊くん
起こしちゃった?」

そうして言いながら湊くんの方へ
振り返り、さっき病室に入ってから
初めて湊くんと顔を合わせた。

だけど湊くんは額に大粒の汗を浮かべ、
胸は大きく上下していた。

「湊くん大丈夫!?」


───そう言えば……、夜間呼吸困難って言っていたんだった…。


「大丈夫、です……起き上がれば
治まるんです……けど」


荒い息のまま華奢な腕を伸ばし、
横になったまま点滴の棒を掴んだ。


「くらくら……しちゃって………」


点滴棒を支えに上半身を起こそうとする湊くんを、慌てて止めて支えて起こした。

だけれど、すぐには湊くんの呼吸は
はぁはぁとフルマラソン後のようで
落ち着く様子はなく、

症状が落ち着くまでの10分位の間
私はその華奢な肩をしっかり支え、
時に背中を摩ったりしていた。


「ごめんなさい、もうへいき………」