女王様は憂鬱(仮)


専務の外出先に同行していたのは、これまで園原さん一人だった。そこに、私も加えてもらえる。
それは、専務の信頼を得られたということだろう。認められるのは、素直に嬉しい。

それに、私が営業に戻ってからのことも、専務は考えてくれていた。
権力を使い、こちらの都合なんて無視して人を突然異動させるような人だ。
正直なところ、私のことだって、ただの駒だとしか考えていないだろうと思っていた。
(でも、少しは気にしてくれていたんだ……)

この一年、営業職としては失うことばかりを考えていたけれど、ここで得られる経験もたくさんあるのかもしれない。

心機一転、全力で職務を全うしよう──心の中で、そう意気込んだ。


「早速で申し訳ないが、明後日の金曜日、パレスホテルで大きなレセプションパーティーがある。それに同行してほしい」

「分かりました。園原さんもご一緒ですよね?」

「いや、園原は明日から出張だ。だから、明後日のパーティーには俺と二人で出席してもらう」

「二人、ですか……」


そう言われると、突然不安になる。
社交の場での大きなパーティーに出席するのは初めてのことだ。しかも、専務の秘書という立場で。


「俺と二人じゃ不満か?」

「いえ、不満じゃなく、不安です……」

「大丈夫だ。俺の側を離れなければいい。優秀な営業ウーマンのことだ。もちろんマナーは身につけているだろう?」

「秘書検定で勉強しました……」

「じゃあ、それを実践するといい」

「そんな簡単に言わないでください」