女王様は憂鬱(仮)


専務はというと、叩かれた左頬をおさえながら、呆然と私を見つめている。
あぁこれは、「親父にも叩かれた事ないのに!」というやつかもしれない。

これだからボンボンは──と心の中で毒づきながら、反撃に出た。


「あなた、セクハラって言葉ご存知? 何もセクハラは、若い娘にだけ当てはまるものじゃないのよ? いくらあなたがそんなつもりなかったって言っても、受けた側がどう感じるのかがポイントなの。でも、今日のあなたの言動は、訴えられても仕方ないことばかりだと思うわ」

「……」

「首にしたければすればいい。その代わり、黙って辞めさせられるつもりはないから」


ふんと鼻を鳴らし、腕を組んで専務を睨みつけた。
女だからって何もできない弱者と思うな! という思いを眼差しに込める。

しばらくの沈黙の後、専務は身体を震わせ始めたかと思うと、突然腹を抱えて笑い始めた。


「あ、あんた……やっぱり面白いな。……くくっ、この俺を殴っておきながら、脅しまでかけてくるなんて……」


何かが笑いのツボに入ってしまったらしく、それから数分間、時折私の顔を見ながら専務は笑い続けた。

正直、逆切れされるだろうと思っていたので、拍子抜けもいいところである。
(私、首じゃないの……?)