女王様は憂鬱(仮)


午後三時半。
専務が重役会議から戻って来たのを見計らって、まとめた報告資料を手に専務室の扉をノックする。

中に入ると、「もう出来たのか?」と、専務が驚いたような顔をして言った。


「優秀な営業ウーマンですから」


にっこり笑ってそう返すと、「自分で言うのか」と専務も笑う。

資料を一部専務に手渡し、一つずつ順を追って説明した。
説明している間、時折専務の様子を確認しながら進めていたけれど、いつものふざけた様子はどこにもなく、真剣な面持ちで資料を捲りながら、私の話に聞き入っていた。


「──というわけで、私はこのA社との業務提携には、将来性があると考えております」

「確かに、販売台数も驚異的な伸びを記録してはいるが、まだまだうちの三分の一にも満たない」

「はい。ですが、つい二年前までは経済紙の業界記事で“その他”に一括りにされていた会社です。それが、今では業界三位に躍り出た。比べて我が社は、ここ数年も不動の一位とはいえ、台数は横ばいか微減。二位のB社が台数を伸ばして来ているので、このままでは数年後にシェアが逆転する可能性もあります」

「逆転、か……」


専務はそう言ったきり、黙り込んでしまった。
私が言うまでもなく、専務は既に自社の現状をご存知のはずだ。
ブランド力、知名度は抜群にあっても、大手にありがちな守りの姿勢が、先行きに影を落とし始めている。