「立花さん……大丈夫ですか?」
側で事の成り行きを見守っていた園原さんが、心配そうに私に話しかけてくる。
残念ながら、大丈夫なわけがない。
「……園原さん」
「はい?」
「専務のコーヒーに今私がうっかり下剤を混ぜても、それは許されますよね?」
「えっっ!?」
がたっと音を立てて、園原さんが椅子から立ち上がる。
そして、私の手にしっかりと白い粉薬が握られているのを見ると、あからさまに動揺を見せた。
「た、立花さん、落ちつきましょう。今日は、朝から重要な役員会議が予定されているじゃないですか」
「……あの専務ですもの、どんなに苦しくたって、平然と涼しい顔をしてやり過ごすに決まっています」
「何の心配もありませんよ」と微笑む私を、いつもはクールな園原さんが必死に説得を試みる姿が可笑しくなる。
「人に頼み事をしておきながら、人のことを年増女扱いするって、いかがなものでしょう?」
「いや、それはごもっともです。専務に変わって、僕がお詫びを……」
「当事者じゃない人に謝られても、ちっとも胸がすきません」
「えぇ、分かります。分かりますが、立花さん──」
「秘書だからって、ボスのセクハラとも言える暴言に、何でも耐えないといけないのでしょうか? これまでのことだってありますし、なんなら、出るとこ出てもいいんですけど」
そこまで言うと、園原さんが突然私に向かって頭を下げた。頭が膝につきそうな勢いだ。