怒りで身震いする私の肩にポンと別の手が置かれたかと思うと、その手にぐっと力を籠められ我に返る。
見上げると、冷気をまとった園原さんがそこにいた。


「そ、園原さん……?」


どう見ても、園原さんが怒っている。どうしたのかと尋ねる前に、その目で『少し黙れ』と言われた気がして私は口を噤んだ。


「まさか、あなたが何も知らないなんて……きちんと初めに確認すべきでした。あなたの目の前にいらっしゃるこの方は、今日からあなたのボスとなる専務──皇敦也(すめらぎあつや)様です」

「……え、でも……役員写真では……」


この男の顔は、確かに見ていない。隅から隅までチェックしたのだから、間違いない。
戸惑いを隠せない私に、園原さんが溜め息をついた。


「あなたの元上司である営業部長には、きちんと説明したんですがね……。皇専務は、訳あってWeb媒体に写真を公開していません。ですが、お名前だけは役員一覧に載せています」

「え、そんなことって……」

「あなたの言うことはよく分かりますが、色々と事情があるのです。詳しくはお話できませんが、皇専務が会長のお孫さんであるということが複雑に関係している──とだけ、お伝えしておきます。それでいいですよね? 専務」


園原さんの視線の先には、仕立ての良いスーツに身を包み、”専務モード”になっている皇敦也がいた。
手櫛で軽く髪をかきあげる姿に、不覚にもドキリとしてしまう。

皇専務は、またあのいけ好かない笑みを浮かべて私を見た。