「立花さん!?」


園原さんと目が合い、救いを求めようと手を伸ばすと、突然彼の顔が呆れを含んだ表情に変わる。
そして心底呆れたように、私の背後にいる男に向かって言った。


「何をやってらっしゃるんですか──専務」

(……え? ……専務……?)


口を塞がれたまま、ぎぎぎっと音が出そうなほどの鈍い動きでゆっくりと背後の男を振り返った私は、見覚えのある顔に目を見開いた。


「んんんんーーーっ」


再び暴れ始めた私を、男はあっさりと解放する。
私は肩で息をしながら男から少し距離を取り、改めてその男に向き直った。


「な、な、な、なんであんたがここにいるのよ!? それに、なんで裸なの!!?」

「裸とは失敬な。ちゃんと下は履いてるだろう」

「ここは専務室よ!? そんな場所に、どうしてあなたみたいな人がは、は、裸でいるのよ!?」


隣で園原さんが、「立花さん、落ち着いて」と言っている気がしたけれど、今の私にはそんなことに耳を貸す余裕がなかった。
目の前に、二度と会いたくないと思っていた男がいたのだから。


「さっき、そこにいる園原が言っただろう、俺のことを”専務”って」

「はぁ!? そんなわけないでしょ!? 私、ちゃんと役員の写真はチェックしてきたんだから。そこに、あなたみたいな若造はいなかったわよっっ」

「若造ね……」


不適な笑みを浮かべながら、男は園原さんに何か目配せをした。


「後は園原に聞け」


そう言って、男はソファーの背もたれにかかっていたシャツを身につけ始める。


「さっきから園原園原って……あなた、失礼なんじゃないの!?」


男はもう、私の問いには答えるつもりがないらしい。私のことを完全に無視したまま、手早くシャツを身につけると、慣れた手つきでネクタイをしめ始めた。

(なんなの、この男……っっ)