「君の異動については、上からの指示で来週部内に周知する予定だ。引き継ぎ期間はそれから三週間くらいしかないが、引き継ぎきれないものは、僕がフォローに回ろうと思っている。残り一ヶ月、今まで以上に忙しくなると思うが……よろしく頼むよ」
話は以上だと言って立ち上がった部長に続き、私も腰を上げ静かに頭を下げた。
その瞬間、堪えていた涙がテーブルに落ちる。
かろうじて、嗚咽だけは呑み込んだ。
私に残された、なけなしのプライドだった。
(会社で泣く女にだけは、なりたくなかったのに……)
もしかすると、部長は私の涙に気づいたのかもしれない。一瞬足を止め、こちらの様子を伺っていたのが分かった。
けれど、私は今の顔を見られたくなかったので、頭を下げ続けた。
長年の付き合いである部長も、そんな私の性格はお見通しなのだろう。何も言わず、足早に会議室を出て行ってくれた。
扉が閉まる音を確認した私は、再び椅子に座り込む。次から次に涙が溢れてきた。
(なんで……どうして……)
ただそれだけを自分の中で繰り返す。
たった一年? また戻れる?
本当にそうなのだろうか。例え一年後に営業部へ戻ってこられたとしても、そこに私の居場所があるなんて保証はどこにもない。
これからの一年、周囲が営業としての経験を積み上げていく中で、私はその成長を止めてしまうのだ。一年のブランクは大きい。今のような結果は、もう出せなくなるかもしれない。
ただただ、不安しかなかった。
どんな環境であっても、前向きにひたむきに取り組むこと。それが私のモットーだったのに。
全てをマイナスにしかとらえられない今の自分が、本当に嫌になる。
始業までの一時間──私はその場から動くことが出来なかった。

