「君はとても優秀だ。うち以外の人間にその実力が認められたことは、誇りに思っていい。僕も君を完全に手放す気はないよ。一年後、必ずまたここに戻ってこられるから。だから、安心して秘書課で君の力を存分に発揮してほしい」


部長が一生懸命私をフォローしようとしてくれているのが分かったけれど、受けた衝撃が大きすぎて、その言葉はほとんど耳に入って来なかった。


なぜ、私なのだろう……。


今の営業の仕事に不満はない。週末にゴルフ接待に駆り出されることだって、急な飲み会のお付き合いだってあるけれど、私はそれすらも楽しんでいる。

相手のオフの顔を知ることで得られるヒントはたくさんあるし、だからこそ私は取引先から受けた誘いは基本的に断らない。

それ故に、枕営業をしている──なんて社内で陰口を叩かれたりすることはあるけれど、私を知る上司や同僚は分かってくれているので、全く気にしていない。

努力した分だけ、成果がダイレクトに数字になって表れる営業の仕事。楽しくないわけがなかった。自分にとって天職だと、本気でそう思っていた。


そんな仕事から、一年とはいえ離れなければならないなんて……。


鼻のつけ根がつんとなる。目の前がじわじわと滲んでくるのが分かった。

正直なところ、納得なんてできない。できることなら突っぱねたい。
けれど、それでは部長にも営業部の皆にも、迷惑をかけてしまうことになる。
上に目を付けられてしまうことだけは、避けなければならない。

悔しいけれど、組織に属している以上、黙って受け入れるしかないのだ。