舞衣は凪に抱かれ、凪の大きな手にずっと頭を撫でられていた。
タロウはそんな舞衣をジッと見ている。
この子は一体何者なのだろう?と一目で分かるような表情を浮かべて。
エレベーターが52階へ到着すると、舞衣は、まるで映画の世界に迷い込んだような錯覚に陥った。
玄関まで続くアプローチには、モダンで近代的な格子柄の大理石が敷き詰められている。
足元のフロアライトがその幾何学的な模様を浮かび上がらせ、ここが住居とは思えないような洒落た雰囲気を作り出した。
そして、52階専用マンションの玄関扉は、頑丈なオークの木で作られた重厚でおもむきのある観音開きタイプのダブルドアだ。
「す、すごい…」
舞衣は、マンションでこんな豪華なダブルドアの玄関にお目にかかったことはない。
ひとり言のように何度もため息をついていると、タロウが急に凪に話しかけた。
「凪さん、舞衣さんを何時に迎えに来たらいいですか?」
タロウは玄関の先に入る前に、凪に用件を告げた。
「必要なら連絡する、もう帰っていいぞ」
タロウはチラッと舞衣を見た。
その目は鋭く、でも、凪の大切な所有物を忠誠心から疑い探ることは決してしない。
「分かりました」
強面イケメンのタロウは、そう言うとエレベーターに乗り消えた。



