「イケメンバー? あの54階の?」
舞衣はますます泣きそうな顔で頷いた。
「あんなとこ行くわけないよ。
このうさ子は俺だけのものなのに、他の連中に見せるはずないだろ?
俺の家へ行く。
そこでもう一回飲み直そう」
舞衣は凪の横顔を見ていた。
男気に溢れていて、その上鋭い細い目元からは品の良ささえ感じられる。
濃いグレーの独特の髪は、光沢のある黒いスーツに映えていた。
あのビルにある52階の住居スペースは、とてつもなくお金持ちでないと住む事はできないと、ジャスティンが言っていた。
こんなに若くて独り身で、見た感じは一風変わった奇抜なイケメンが、実は億万長者で世界を牛耳っているなんて、きっと誰もが想像もできないだろう。
そんな凪さんを私は夢中にさせてる?
もとい、私じゃなくうさ子だけれど…
いつの間にか、凪のベンツはビル内の地下駐車場に停まった。
タロウはすぐに車から出て、後部座席のドアを開ける。
「よし、行こう」
舞衣は体が動かない。
無意識の内に足腰に精一杯の力を込めている。
「行くぞ」
舞衣が先に出ないと凪も降りれない。
それでも舞衣は動かなかった。
「凪さん、私、あのビルのフロントロビーに行きたくありません。
こんな恰好でウロウロしたら、警察に通報されます」



