凪の部屋で、二人に言葉はなかった。
一分一秒を惜しむように凪は舞衣を何度も抱いた。
舞衣は、凪が注いでくれたワインに一口も口をつけていない。
本当は切なくて悲しくてやりきれない想いを忘れるために、酔った方が楽なのは分かっていたが、凪の温もりと凪の匂いを放棄したくはなかった。
これから自分がちゃんと凪の事を考えていく上で、舞衣にとっては必要不可欠となっているこの温もりと凪の匂いだけは覚えておきたかった。
キングサイズの凪のベッドの中で、舞衣は眠れずにいた。
もう時計は真夜中の3時をさしている。
「舞衣はもう寝なきゃ…
明日、普通に仕事があるんだから。
ほら目を閉じて…」
凪はそう言いながら、舞衣の上に優しくシーツをかけ直す。
舞衣の頭を愛おしそうに撫でてから、自分はスウェットを着てリビングの方へ歩いて行った。
凪が部屋から出た途端、舞衣の中で寂しさと喪失感が溢れ出し、涙が滝のように流れ出した。
涙は止まる事を忘れたかのように嗚咽となって、舞衣を苦しめる。
舞衣は分かっていた。
もう凪なしでは生きていけない。
でも、だからといって、仕事も何もかも置き去りにして、アメリカに行く事はきっと許されない。
真面目過ぎる舞衣にとってアメリカ行きは、気が遠くなるような夢のような出来事だった。



