映司が自分のブースに向かって歩き始めた途端に、舞衣のスマホが初めて聞く音を鳴らした。
あ、ぎんなんだ……
スマホの待ち受け画面にぎんなんと大きく表示されている。
舞衣がぎんなんの表示を開くと、その文面で凪の怒りが伝わってきた。
“ちゃんと断ったか?”
舞衣はそろりそろりと辺りを見回した。
凪さん、どっかで見てた??
ここの会社の人々は、朝一番で必ず自分のパソコンのチェックをする。
そのため、サロンルームでコーヒーを淹れると、しばらくは自分のブースから出てこない。
そうだよ…
凪さんが見てるなんてないない…
舞衣は自分にそう言い聞かせ、凪に返信した。
“断るも何も、何もないですから”
すると2秒もかからずに凪から返信がくる。
“夜は今日も俺の家だぞ”
舞衣はしばらく考え込んだ。
俺の家だぞって、今日も凪さんの家に来いってこと?
それはすごく嬉しいけれど、でも、冷静な舞衣は首を横に振っている。
凪に深入りしてしまうことは避けなければ、きっと、二人とも傷ついてしまう……
“考えておきます”
舞衣はそう返信すると、スマホの電源を切った。



