何かあったのだろうか。


急にこんなにもテンションが下がるなんて、いつも元気な三枝くんにとってはおかしい。


その時、ふとさっきの逢坂くんとのやりとりを思い出した。


「聖、って誰なの?」


「……っ!」


一瞬目を見開いて驚いた三枝くん。


そして、苦の表情でこう言うのだった。


「幸せな家庭に生まれてきた鳴海には分かんねぇよ」


それだけを残して、ベッドから降り、昨日あげたドールハウスの中へ静かに入っていった。


何も言わず、何もせず。


沈黙だけがゆっくりと漂ってゆく。


今のは、どういう意味だったのだろう。


私が過ごしてきた当たり前の日常は、三枝くんにとっては、これっぽっちも当たり前なんかじゃなくて。


上手くは言えないけれど、少なからずの違った思いがあるに違いないっていうのは、その黒い影をまとった瞳を見れば分かることだった。