目線をスゥーと逸らした。
「今回の御嬢様からは執事役交代を頼まれないように気をつけろよ⁇」
"アクアに非の打ち所はないと思うんだけどな" とぼやいた。
以前 臨時担当をしていたお嬢様には 担当の交代を言われた。
心当たりはある、俺は3歳歳上の彼女に想いを寄せていた。
好かれたい、そう思いながら取った行動は執事として 決していいものではなく、よく空回っていた。
『役立たず』と何度言われたことか。
それでも、お嬢様の美貌に惹かれていた。
……執事がお嬢様にそのような感情を抱くことが許されていないことは 分かっている。
特に ここでの関係は全て 一時的なもので いずれは別れが来る。
そうして 離れ離れになる際に面倒事が起きたことがあるらしく、それ以降 この場所での恋は正式に禁止された(入所者同士・主人-執事間共に)。
そもそも、主人には許婚・許嫁がいる場合が多い。
だからこそ、余計に恋愛禁止の約束は徹底して守られるべきものとなる。
主人と執事が恋人同士になったことが確認された場合、直ちに 執事はその主人の担当を外れることになる。
そして、その執事は厳重に裁かれ、その罪に対する罰を受けることになる。
【主人と恋愛してはいけない】
【主人に恋愛感情を抱いてはいけない】
【主人に恋愛感情を抱かれてはいけない】
以上のことが定められている。
とは言え、人の感情というものは一筋縄ではいかないから これらを守ることは相当に難しい。
長い間、異性と一緒に居れば 勘違いして その人のことを好きだ、と思ってしまうこともある。
"憧れ" の気持ちを "恋愛" と形容してしまう人もいる。
だからこそ 主人からの苦情でもない限りオーナーも余計な首を突っ込んだりしない。
「気をつけるよ。」
コツン、コツンー
部屋の外から足音が聞こえてきた。
時計を見ると、もう約束の時間だ。
お父さんも俺も 咳払いをして、お互い 目配せをした。
これからは、仕事の時間だ。