「アクアは今日から入所される相野御嬢様の執事役を頼む。」

「かしこまりました。」

1ヶ月ほど前から そのことについてはオーナーを通じて聞いている。

まだ先のことだと思っていたけれど、ついに今日が これから1年間担当することになっているお嬢様との対面日。

お嬢様のお父様とは 既に2度ほど お逢いさせていただいているけれど、お嬢様本人にお逢いするのは今日が初めて。

私はこの施設で執事として働いている。

あまり詳しくは言えないけれど、とある警察の広域調整部が抱えている 数多くある条件を満たした人を保護する目的を持つ秘密組織。

保護の対象に当たるのは 財産持ちのご子息・ご息女(未成年に限る)。

他の諸連絡事項も終わり、就業前ミーティングが終わった。

私は今日 お迎えするお嬢様の部屋に生活用品が ちゃんと搬入されているかを確認しに向かった。

ドアの前に山積みになった段ボール箱。

……中に搬入して、尚且つ 開封作業まで頼んでおいた筈。

今更 文句を言っても仕方がない。

段ボール箱を部屋の中に搬入し、開封作業を進めた。

相野様方との対面時間は20:00、まだ2時間程ある。

今日届いたものはお嬢様のお洋服など、収納するのに 然程時間も取られないだろう。

……なんて考えは相当に甘かった。

よく考えればわかることだ。

何しろ、ドアの前に積まれていた段ボール箱の数は20近かった。

箱を3つ開けた時点でこの作業が途方にくれるほどの時間を要するものだと気がついた。

"秋冬服" とラベルの貼られているものについては また今度にしよう、これは即刻するべきものではない。

他、お嬢様が送って来られた日用品を先に開封した。

……何なんだ、この物の多さは。

細々したものが多く 陳列に時間もかかる。

とにかく目先のことに集中して作業を続けること1時間。

携帯電話に着信があった。

「はい、アクアです。」

『予定よりも早くに到着されるそうだ。

今、何をしている⁇』

オーナーからの電話。

「お嬢様がお屋敷から送って来られたものの開封作業を。」

『やっていなかったのか⁇』

「頼んでおいたつもりでしたが、伝達ミスがあったようです。」

『過ぎたことを言っても仕方がない。

30分前に御到着されるそうだ、早めにその作業を切り上げて 応接間の方に来なさい。』

「かしこまりました。」

電話を終えて、また作業に取り掛かる。

19:00にアラームを設定した。
……後 20分程。急がなければ。

予定通り 見切りをつけたもの以外の収納が完了した。

やればなんとかなるものだな。

残った段ボール箱は部屋の隅に重ねて置いた。

他、生活必需品が用意されているか 確認した。

タオルの枚数が他の部屋に比べて少ないので 執事長に新しいものを補充することを伝えておこう。

取り敢えず、今晩のうちに必要そうなものは全て揃っている。

最後に冷蔵庫の中身を確認しておいた。

和食でも洋食でも作れそうなくらい食糧品は揃っていた。

腐ってしまう前に全てを使い切れるか、少し不安も残るけれど。

確認の途中で設定していたアラームが鳴った。

アラームを止め、部屋を出た。