私の言葉に、返事はなかった。かわりに先生の足音がしたから、私がここを開けた事がもう見えているんだろう。

後ろを振り向かずに、私は続ける。



「こうやって、しまい込んで、引っ張り出して、またしまい込んで、また引っ張り出して……先生はずっと、ぐるぐるぐるぐる、いつまでも過去の自分と過去の恋愛を引きずってるんだよ」



自分で言って泣きそうになる。
それをぐっとこらえるのに、胸の奥があつい。息もうまくできない。泣くのを我慢するのは私の得意技のはずなのに。



「後悔ばっかの高校生活なのに、捨てられないのは先生にとってかけがえのない時間だったからでしょう。本当は先生、誰よりも一番、あの頃に執着してるんだよ」



先生から返事はなかった。

私は荷物を片手に、立ち上がる。後ろは振り向かない。泣いていることがばれたくないから。



「……先生の馬鹿」



先生が今どんな表情をしているのか、どんな気持ちでいるのか、わからない。だけど、ああこれで、私の初恋は終わったんだなって思った。


大人に見えた先生は、仮面をかぶっていただけだったのかもしれない。
たまに見せる先生の子供っぽいところが好きだった。

17歳を捨てきれない先生が、17歳の私に振り向くはずがなかったんだ。


返事をしない先生に背を向けたまま、私は玄関を飛び出した。