「チカ、最近お母さんがいない日の夜ごはん、どこで食べてるの?」


唐突に聞かれてギクリとする。テーブルを挟んだ先にいる目の前のお母さんはニコニコとわらっていて、なんだか全部感づいているんじゃないかと思ってしまった。

夜勤のない日は、塾から帰ってきたあと毎日お母さんと夜ごはんを食べる。それはうちの数少ないルールのひとつで、そのおかげで私とお母さんはケッコウなんでも包み隠さず話せる関係でいられるんじゃないかと思っている。



「どこって…フツウだよ、フツウ。友達とファミレス、とか。コンビニ、とか。」
「ふうん、前はお母さんがいない日は料理頑張ってたのに、やめちゃったの?」



お母さんはクスクスわらう。これはきっとたぶん、全部わかってるときの顔だ。

料理を頑張っていたのは事実。翔くん先生と夜出かけるようになってからは、そんな時間なくなっちゃったんだけどね。



「やめたわけじゃないけど…」
「チカ、大切なひとでもできた?」



ふふ、って。おかあさんが私のことを全部わかっちゃうの、なんでなんでなんだろう。これは長年のナゾだ。

お母さんが今日のメニューであるきんぴらごぼうを口で運ぶ。その、きれいな箸の持ち方がすきだ。茶碗を持つ左手も、背筋をピンと伸ばした座り方も。

お父さんがいなくなってから、お母さんは前よりもずっと「ちゃんとしてる」ようになったと思う。たまにお酒を飲むけど、それ以外はおかあさん、すごいひとなんだ。いつも背筋の伸びたおかあさんの背中が、さみしいようで私の憧れでもある。



「大切なひとって…」
「ふふ、あたり?」
「ち、ちがうよ、そんなんじゃ…」
「ウソ。女の子ってね、大抵そういう事隠したがるのよ。親にはバレバレだっていうのにね」