「なっ、先生が笑うところじゃないですよね?」
「ごめんごめん、つい」
彼____金沢 翔太(カナザワ ショウタ)、通称"翔くん先生"は、その有り余るほどの美しさを撒き散らしながらまだケラケラと笑っている。
イケメンに笑顔なんてこんなにズルいことはない。不覚にもどきどきしてしまう自分に腹がたった。ちくしょう、ちくしょう。
「それで、いつ? 見たの」
「き!の!う! ここで、アスカとしてましたよね?」
今日が日曜日だから昨日は土曜。高校3年生の私たちにとって休日があるはずもなく、学校が休みの日は受験勉強のためにせっせと塾に通っている。
昨日の朝の講座中、トイレに行きたくなった私はひっそりと教室を抜け出したのだけれど、そのおかげで4つ分隣の空いている教室で密会を交わす二人をバッチリと見てしまったのだ。
「あーアスカちゃんっていうの、あの子」
「名前も知らなかったんですか?!」
「顔は知ってるよ。でもこんなに生徒がいるんだし、覚えてない子の方が多いと思うんだけど」
まるで困ったように肩をすくめる。バイトとはいえ塾講師。しかも大事な大事な高校3年生を受け持っているくせに、なんてテキトーな人なんだろう。