「なんだ、それ」



先生が一瞬。ほんとに一瞬。____私に向かって、わらった。

手をポケットに突っ込んで、そのまままた夜空を見上げる。




「……桜井はおもしろいな」

「………そうでしょ?」

「否定しないんだ」

「今は、しないよ」



星が光ってる。やっぱりあの星は先生みたいだね。そう言ったら先生はなんて言うのかな。

ねえ先生、バカは私の方かな。

たった数時間、同じ時間を過ごしただけなのに。先生の扉をこじ開けたいって思っちゃった、私はバカかな。




「……若いなあ、17歳」

「女子高生、舐めないでね、先生」

「……ちょっとなめてた」

「先生よりずっと、若いんだから!」



先生は夜空を見上げたまま、もう一度小さく「じゅうななさい、」と呟いた。

さっきもそうだったけれど、先生はやたら17歳という言葉に敏感な気がする。




「……なあ、桜井」

「……はい」

「週に2、3回、夜は1人だって言ってたよな」

「はい、母は夜勤多いので……どうして?」



夜空から視線を外して先生を見る。
そしたら同時に先生も私の方へと視線を向けたから、ドキンと大きく心臓が疼いた。




「じゃあその夜は、毎回俺と過ごそうか」

「えっ……?!」




そんな冗談ーーーそう言いかけて、止めた。だって先生が、真面目な顔をしてそう言うから。



「ちゃんと家まで送ってやるから」

「……そんなことされなくったって、断らないですけど」

「そう? それなら嬉しい」



先生はちょっと笑って、チャリンとポケットから車の鍵を取り出した。ずるい、先生はずるい。どこまでも、どこまでもずるいよ。

ナオってひとの話をいつか聞ける日がくるのかな。私が、先生のためにできることってなんだろう。

……そもそも、この感情が憧れなのか、恋なのか、そんなのとは全く別の何かなのかは、私にはわからない。

だけど。



______慣れた1人の夜を、寂しい2人で過ごすのもきっと悪くない。



先生がまたスマートに助手席のドアを開けて、「帰るぞ」って言うから。私は小走りに駆けて、先生の黒いスポーツカーに乗り込んだ。