桜が葉っぱに変わった桜並木を走りながら、いつものように車の中に流れている洋楽をふんふんと口ずさむ。ジリジリと照り付ける太陽が、夏を教えてくれているみたいだ。

窓の外は一面緑で、この道を抜けたら先生の暮らしていた町があるんだとか。

チラリと横を見ると、ねむそうにあくびをする翔くん先生の姿がある。ここまで車で3時間、遠いような近いような微妙な距離だ。


 そっと、手元にある色あせた水色のアルバムを静かに開いた。

先生と、ナオとジンのアルバム。先生が町を出るときに、ふたりからプレゼントされたんだとか。

涙の痕が残るそれを優しくなぞると、隣で先生が「恥ずかしいからあんま見んな」って声をかけてくる。



「いいじゃん、これから会う人の顔、ちゃんと知っておきたいもん」

「いや、これから会うんだから見なくてもいいだろ。つーかおまえ、何回も見てんじゃん」

「だって、高校生の先生、すっごい可愛いんだもん!」

「うわ、やめろよ。もう次からぜってー見せない……」



 先生と気持ちが通じ合ってから約一年。無事に受験を終えた私は、第一志望の大学に合格した。真っ先にそれを先生に伝えた時、『おめでとう』でも『頑張ったな』でもなんでもなく、『そういうとこしっかりしてるよなあ、おまえ』って頭をなでられたこと、今でもよく覚えてる。

そういうとこ、翔くん先生らしいよなあって思う。




「ああほら、もう着くぞ」



先生が見つめる先に、水色の綺麗なマンションが見えた。庭にはたくさんのヒマワリが、所狭しと並んでいる。