俺の服を着ている桜井も、俺の言葉を勘違いして捉えている桜井も、俺が怒っている理由がわかってない桜井も。……全部、いとしいと、思ってしまった。
南緒以外の人間に、こんな感情を抱く日がくるなんて思わなかったよ。
俺は一生、あの17歳っていう年齢にとらわれて生きていくんだと思ってた。
たまらなくなって桜井を抱きしめて、キスさせてほしいだとか、そんな子供じみた言葉を吐いて。どうしても桜井を繋ぎとめておきたくて、どうしても安藤なんかの感触を消してやりたくて。
……俺が、消したかったのかもしれないけど。桜井の中にある、俺以外の男の感触なんか。
「ねえ、先生」
桜井の、小さくてきれいな声が。抱きしめた俺の腕の中で静かに響く。
「私は、どこにもいかないよ」
ふと、俺の力は自然にゆるんだ。
同時に桜井が、俺の腕からゆるりと距離をとって。
「先生、私は、どこにもいかない」
桜井の、まっすぐな瞳が俺を捉えていた。その瞳の中にはちゃんと、俺がうつっていて。
桜井の手が俺の手に重なった時、いろんなことが全部、俺の中にハッキリかえってきた。ハッキリ、自分の想いが見えた。
ああ、俺はきっと、ずっと、この言葉が欲しかったのかもしれない。
ずっと、ずっと、失うのが怖かったのかもしれない。
『どこにもいかない』と、そう誰かに寄り添ってほしかったのかもしれない。