「っ碧音!」


「――て、昔の俺だったら言うと思う」


香澄の表情が、みるみる変わっていく。


「けど、今は。そうは思えない」


やんわりと絡められた手を離す。


「皐月や星渚、藍とバンドをやりたいっていうのもあるけど。それよりも」


とくとくとく、心臓の鼓動が早くなる。じわりじわりと、胸の痛みが広がっていく。


「バカで、アホで、変態なあいつが。頭から離れない」


皐月に宣戦布告をされた日から。……いや、本当はもっと、もっと前から。


「明日歌が?」


「いっつも碧音君、って飽きもせずに駆け寄ってきて屈託のない笑顔を見せてくれて、昔の俺も過去も受け入れてくれたあいつのことが、頭に浮かんで……」


声が、震えた。自分は今、どんな顔をしているのか。香澄も、珍しく動揺しているようで。


「碧音、それって」


「俺は昔、辛いとき傍にいてくれた、優しさを教えてくれた香澄の帰りをずっと待ってた、香澄が好きだって思ってた」


「…………っ」