嬉々とした様子で碧音君の手をとって楽しんでいた姿を思い出す。


「香澄が楽しんでくれたから、よかった」


「……碧音君は、香澄さんのこと――だもんね」


「ごめん、聞こえなかった」


校庭から聞こえてくるかけ声で私が蚊の鳴くような声で呟いた単語は、消された。


「ううん。何でもない」


あんなの、逆に聞かれなくて良かったかもしれない。


「明日歌は皐月と遊園地から出たあと、真っ直ぐ帰ったの?」


「うん」


本当は違う。皐月がお勧めだというカフェに寄ったり散歩したりして帰った。けど遊園地を抜け出した手前言いづらいことなので誤魔化しておく。


「どうして先に帰ったのか、理由は聞かないけど。……皐月に任せておいて、良かったってことか」


碧音君に追いかけてきて欲しかったんだよ、と言ったらどう思われるだろう。碧音君の優先順位は私より香澄さんが上だと知ってるのにこんなことを思うなんて、おかしいよね。


「……うん、皐月のおかげでどうにかなったから」


「――……っ、……」


窓の外の景色を見ていたから、この時碧音君が複雑そうな顔をしていることは分からなかった。