いつも大人びている碧音君も今は年相応に楽しんでいて。その表情はなかなか見られるものじゃないから、単純な私の心はすぐにキュンとしてしまう。
「なぁ、腹減った。昼飯食わねぇ?」
皐月がオシャレな腕時計にチラッと視線を移す。
「そうね、休憩しましょうか。どこがいいかしら?皆希望はある?」
香澄さんがパンフレットに載っているレストランエリアを指した。
「俺は皆が行きたいとこでいい。明日歌は、こういう店がいいんだっけ。前に、お前『遊園地に行ったら、そこ限定のメニューがあるお店がいい』って話してただろ」
「覚えてたんだ」
「お前に力説されたからな。香澄はどこがいい?」
「そうねぇ……」
皆の会話が上手く耳に入ってこない。その代り、碧音君の台詞が脳内でクリアに再生される。碧音君はずるい。不意打ちだ。
私の下らない話なんか、全部聞き流してこれっぽっちも覚えていないと思ってたのに。実際、私が話しているとき碧音君は『はいはい』と適当に相槌してたし。


